アップルの「Apple Arcade」を考える。サブスクリプション系ゲームサービスのビジネスモデルに未来はあるのか

アップルの「Apple Arcade」がサービス開始しましたね。

Apple Arcadeは、月額600円(アメリカでは4.99ドル)を払うと、100以上の独占配信ゲームにアクセスできるようになります。リリース時は50タイトルぐらいのようです。

以前からある似たようなサービスとしては、EAのオリジンアクセスやXbox Game Passですね。最近ではUPlay+が海外向けに出ましたね。Googleのストリーミングゲームサービス「Stadia」もサブスクリプションを予定しているようです。

Apple Arcadeは現在iPhone、iPad、Apple TVで利用可能で、今後、Macでも利用できるようになるとのことです。

様々な場所で昔からある「月額料金」制度ですが、ゲームに対しても確実にその波が押し寄せてきています。

アプリゲームの課題

ここまでのスマホアプリゲームの収益は、アプリ内の課金が基本でした。

また、良く見るパターンとして、無料でゲームはできるけど中に広告が入っている、などでした。

アクセスを稼げるゲームは広告収入も増えますが、その分、ユーザーの満足度を下げてしまいます。

アプリ内課金を利用するのはアクティブユーザーの10%と、まことしやかにささやかれていたり、なんてことが昔ありました。そのパーセンテージの真偽は置いておくとして、1万人の10%よりも100万人の10%のほうが数は多いわけです。母数となるユーザーを獲得するために、まずは無料で提供するというものが主流になっています。

最近出たドラゴンクエストウォークなどは、大和証券が月商の想定を9億円から18億円に引き上げた、なんてニュースもあり、アプリ内課金利用の大きさがうかがえます。

その反面、買い切りで追加の料金なしでプレイできる類のゲームは、市場で苦戦するようになっています。

基本無料で、アプリ内の課金アイテムで収益化するというビジネスモデル

アプリやオンラインゲームでは昔からよくある収益化のモデルケースですが、最近ではフォートナイトというバトルロイヤルゲームがそのモデルで大成功を収めました。

PCゲームでも、FPSゲームでも、基本無料ゲームは結構ありました。Pay to Winやらなものも多かったです。

そんな中でフォートナイトは、課金アイテムが見た目だけ、という形で成功を収めました。課金しても勝ちやすくなるわけではないのです。それでも大ヒットとなりました。後発のエーペックスレジェンズもかなりヒットしました。

フォートナイトの成功要因の一つとして、日本の場合、もともとスマホアプリでよくあったゲーム内課金システムが、すでに市場である程度受け入れられていたから、という理由があると思います。またフォートナイトは、ゲームのアップデートスピードが速く、様々な企業とコラボして話題を提供し続け、アクティブユーザーを増やす努力を続けていたからでもあります。海外では以前から批判されていたルートボックス形式ではなく、自分で好きなコスチュームを選んで買う、というのも好意的に受け取られた原因でしょうか。アイテムショップに毎日時間制限で並ぶコスチュームやエモートを買い逃し、再販を待ち続けるユーザー、なんてのにもありました。

またフォートナイトは早期にPS4版やスイッチ版、さらにはiOS、androidと面を広げる戦略に出ていて、課金システムに抵抗がないスマホアプリ層を早期に取り込めたも、成功の要因の1つではないかと思います。

フォートナイトの成功は、バトルロイヤルのジャンルでも、基本無料ゲーム内課金ビジネスモデルを踏襲するフォロワーを広く生み出しました。

ただ、この基本無料ゲームの収益モデルは、ゲームをプレイしてもらうだけでは収益にならないジレンマがつきまといます。

バトルロイヤルのゲームでも、この基本無料ゲームはたくさんリリースされましたが、ほとんどが消えてしまい、フォートナイトとエーペックスぐらいになってしまいました。(モバイルのみと限定すると、PUBGや荒野行動が無料ゲームとして大規模なユーザーを獲得しています)

エーペックスはリリースされた直後からとんでもない完成度でして、非常に作りこまれた良いゲームでした。既存のバトルロイヤルゲームの不満点をこれでもかというぐらい潰したゲームシステムは非常に快適でした。

また、エーペックスは非常に面白かったため、リリース直後に爆発的にユーザーが増え約1か月で5000万人を突破しています。年間の収益化予想が3憶ドルなんて記事もあります。

かなりの時間と人を費やしたことは容易に想像できます。それを無料ゲームとしてリリースしたわけです。これは企業に豊富な資金あるからできることです。

フォートナイトやエーペックスは資金が豊富な一部の例外でして、特にスマートフォンアプリのゲームに関しては、膨大な資金を準備することは難しいことになります。

なので、ゲーム開発において課金システムが優先順位の一番上に来てしまいやすくなっています。そのため課金アイテムの購入額を高くする方法をどんどん突き詰めていくことになります。Pay to Winな課金アイテムは非常にわかりやすいですね。

そうしてできたゲームは、より課金アイテムを購入しやすいゲーム、もしくは、課金アイテムを購入したくなるようなゲーム、になります。

そんなゲームでも、内容が非常に面白く、課金の要素もバランスが取れていて、長い時間人がいて収益が上がる、というゲームもあります。ありますが、課金アイテムの購入を煽るような悪質なものも、同時に生み出してしまいます。

これはユーザーにとっても不幸な事態を起こす可能性があります。

仕組み自体は悪いものではないですし、ゲーム自体が面白いものも多数ですが、閾値を間違えると一気に危ない方向に行くのが、このシステムの課題でもあります。

スマホゲームを売る側の課題

アプリ内に追加の課金システムを用意せず広告も入れないとなると、ビジネスとして成り立たせるためには、そこそこの金額で売るしかないわけです。

ですが、現在のアプリゲーム市場では、有料買い切りのアプリゲームはユーザーにプレイしてもらえない確率が高くなります。

ゲームをプレイすること自体は「無料」である、という概念が浸透してしまったのがアプリのゲームなんでしょうね。

スーパーマリオランの1200円は当時とても話題になった気がします。1-3まで無料でその後は1200円払うと最後までプレイできる買い切りシステムでした。ゲームをやりこむユーザーにとっては非常にお得感あふれる「マリオ」でしたが、ライトな無料ゲームしかプレイしない層の批判はツイッターで良く見た気がします。

これがスマートフォンのゲーム市場にある、開発者側の大きな課題の1つです。

きちんと開発したゲームの場合、課金要素を入れないのであれば、基本はゲームを「売る」しかないのですが、有料にした途端プレイ数は極端に減ってしまいます。

適正な価格で販売できないということは、資金の回収が難しくリスクが高い賭けになってしまいます。そのリスクを冒してまで良いゲームを作ろう、実験的なことをしよう、というのは豊富な資金がないと難しいです。

そんな状況下で、「Apple Arcade」は開発者支援という形で1つの打開策を提示しています。

「Apple Arcade」の開発者支援という打開策

今回の「Apple Arcade」はサブスクリプションサービスですが、ここに開発者として参加するには、Apple Arcadeのデベロッパになる必要があり、Appleの審査に通る必要があります。

Appleの発表によると、このデベロッパになると開発費用を助成してくれるそうです。

アップルに認めてもらえたら、という条件は付きますが、「Apple Arcade」は有料ゲームに対して、開発の資金という面での解決策になる可能性があります。

さらに、アップルが厳選したタイトルというお墨付きを手に入れたうえで、集客プラットフォームに参加できるという利点を、開発者に提供できることになります。

開発者にとっては1つよい選択肢になりそうです。

ゲーム数が今後増えていくと、集客という意味では少しずつうまみが減っていくのかもしれませんが、それでもAppleが編集して提供するゲーム情報の中に入ることができるのは非常に大きな利点として残りそうな気がします。

では、利用者にとってはどうなるのでしょうか。お得でしょうか。

継続的にお金を払う魅力があるでしょうか。

サブスクリプションのゲームサービスは実際お得なのか、EAのオリジンアクセスから考える

筆者は、EA(Electronic Artsエレクトロニック・アーツ)のORIGIN ACCESS PREMIER(オリジンアクセスプレミア)に入っています。

PREMIERメンバーの特典としては、オリジン内のすべてのゲームではないですが、対象のゲームを好きにプレイできます。月額1,644円です。12か月払うと19,728円、年額一括で払うと10,644円になります。

これがお得かどうかは難しい判断ですが、ゲームとしては、アンセム・バトルフィールド5・タイタンフォール2とプレイしまして、アンセムとバトルフィールド5は10,584円、タイタンフォール2はすでに安くなっていて3,024円です。年額一括で払っているので、元は取っている形です。

とは言っても、アンセムはあまりプレイしませんでしたので、プレイ時間的にはバトルフィールド5とタイタンフォール2のシングルモードが多く、そこまでのお得感はなかったかもしれません。

FIFAやSims4もプレイしてみたいところなのですが、そこまで時間が無いのが残念なところでした。

で、この仕組みがお得かどうかの個人の感想ですが、まず第一に「思っていた以上にプレイする暇がなかった」でした。

おっ、と思うタイトルは結構あったんですけど、なかなかそれを本腰を入れてプレイする時間がなかったというのが現状です。

例えばEPICだったり、steamだったりのゲームをプレイすることも多く、なかなか難しかったです。

なので、これがお得なのかどうかイマイチ良くわからなかった、という印象です。

とりあえずバトルフィールド5はプレイしたし、タイタンフォール2もちょっと触れてエーペックスの世界観を感じることができたしで、まあ良かったな~という印象でした。タイタンフォール2は後日かなりやすくなって3000円でプレイできますし、バトルフィールドも通常版を買っていたら、と思うと金額的には微妙かもです。

5つぐらいのゲームをプレイして、ゲームの総額が50,000円ぐらいになっていて、どのゲームも面白かったら、お得だった、と思うかもですが、時間的にもそこまで行けなかったというのが実情でした。

プラットフォームがPCゲームというのも影響していると思います。とりあえずちょっとプレイしよ、という感覚になりづらかったところがあります。

ユービーアイソフトの「Uplay+」が値段も月額14.99ドルと近い感じでして、形式からもオリジンアクセスと似た使用感なんじゃないかと推測しています。こちらは日本ではサービスがないのとまだ始まったばかりとのことで比較は難しいですが。

では、「Apple Arcade」はどうなるでしょうか。

「Apple Arcade」はユーザーにとってお得なサービスになりえるか

「Apple Arcade」は、使用できるデバイスが、iPhone、iPad、Apple TVになります。また、今後、Macでも利用できるようになります。

基本のターゲットは普及率の高いiPhone、iPadになりそうです。

となると、ゲームとしては今までのiOSアプリと同じ、スマホ・タブレットゲームになりそうです。

月額600円ということで、年では7200円になります。

リリース時は50タイトルぐらいで、今後順次増えていくそうです。

どんなゲームがプレイできるか、というところですが、有名どころだと以下のタイトルになります。

Shinsekai Into the Depths (カプコン)

Frogger in Toy Town (コナミ)

LEGO Brawls (LEGO)

Rayman Mini (Ubisoft)

Various Daylife (Square Enix)

スクウェア・エニックスやカプコンなど、日本の大手も参加しています。

それ以外ではやはり独立系インディーズゲームが多いですね。

もともとアプリのゲームにはそういう傾向が強いですが、その中からアップルが厳選しているもの、として捉えても良さそうです。

紹介画像などを見ると、ぱっと見ちょっとやってみたいな、的なゲームが結構あります。

スマホアプリということで、手軽に試せますしタイトルとしては良さそうですが、年間7200円払うと考えると、後は今後の追加タイトルにかかってくるのかなと思います。

「家族が6人までアクセスできる」は家庭のゲーム費用の抑制というメリットがあり、「ダウンロードしてオフラインでもプレイできる」などは通勤・通学の際にも便利です。新しいゲームを先にダウンロードしておいて、空き時間にちょっとずつプレイする、なんて楽しみ方も気楽にできます。

ただお得になるかどうかは、結局のところ「面白いゲームがあるかどうか」にかかってくると思います。

特に、爆発的にユーザーを増やすためには目玉タイトルが必要になります。

今後のタイトルに期待です。

タイトルが期待できないと、毎月600円払ってもな~もったいないしな~となって解約されてしまいます。

ここがお得かどうかの分かれ目になりそうです。

サブスクリプションモデルの利便性はありそうですし、用意されるゲームタイトルによってはお得になりそうではありますが、では受ける市場側は将来的に発展の余地はあるのでしょうか。

サブスクリプション系ゲームサービスのビジネスモデルとして有望な「スマートフォン市場」

PCゲームに比べると「ちょっとやってみよう感」が出やすいスマートフォンのアプリゲームのほうが、サブスクリプションに向いている気がします。

ニコニコ動画のプレミアム会員が月550円でした。「Apple Arcade」は600円と同価格帯です。月額で払ってあまり気にならない良い値段だと思います。この価格帯が受け入れられるかどうかが、最初のハードルになりそうです。

スマホゲームが好きな人が、一つのゲームに大量に課金するぐらいなら、月額600円で暇つぶしでやるかな、みたいな感じで受け入れられれば、ヘビーな層も一定は獲得できるでしょうか。

また、「Apple Arcade」の「家族が6人までアクセスできる」というキャッチコピーは、ターゲットに家族も含まれていることを示しています。任天堂スイッチを買い、すべてのソフトに5,000円かけるという形式と比較すれば、サブスクリプションのサービスにはコストを抑えるメリットがあります。金銭的に裕福でなければ、「Apple Arcade」でサブスクリプションでゲームをプレイし、コンシューマー機は諦めるという選択肢がゲームのライト層に提示されるのはメリットです。スマートフォンが基礎インフラ化している現代では、新たな支出を抑えるという意味で、需要が見込めるかもしれません。

スマートフォンならではの「価格」も武器になるかもです。「Apple Arcade」の一番根源的なメリットの1つを「1つのサブスクリプションですべてをプレイできる」という謳い文句が表現しています。この1つのサブスクリプションが600円なわけですが、この価格を「低価格」「手ごろな価格」と認識してもらえるかが重要になります。

600円がお手頃価格と判断してもらえればサブスクリプションモデルは今までにないお得感をユーザーに感じてもらえる可能性を秘めています。

無料課金ゲームに慣れた、もしくは、無料課金ゲームしか知らない世代には、高額なゲームを買う抵抗感を薄れさせて、先にお金を払ってもらうことが期待できます。

もともとゲームは買ったら終わりでそれが全てを知っている世代は、追加課金システムの無い作りこまれたゲームの楽しさを思い出し、ある種のノスタルジー的な満足感を得られるのではと想像します。

他のゲームサブスクリプションを経験した身からすると、月額1500円は高いけど600円ならまあいいかとなるかなと思います。

やっぱり1500円は高いかなと。

Googleのストリーミングゲームサービス「Stadia」は9.99ドル(日本は…残念)です。サービスとしては、プレイし放題は特定のソフトだけ、ということでしたので、提供されるゲームも違いデバイスも違うので単純比較は難しいですが、この価格の違いもスマートフォンの利点だと思います。

莫大な予算を使ったAAAタイトルではなく、大きくない開発費でもなんとか作成できるスマホゲームだからこその、価格帯の強みは、やはり有望な市場なんじゃないかと。

懸念としてあるのが、「絶対にゲームは無料」な人達に価値を認めてもらえるかどうか、というところです。

この対策として、最初の1カ月はお試し無料で使えます。支払い方法を確定するかクレジットが600円以上入っているかが条件になっているようですが、とりあえずは無料でお試しできます。

似たようなアップルのサブスクリプションサービスに、Apple Musicがありますが、こちらは3か月のお試し期間です。それに比べるとかなり短いですね。早めの収益化を狙っているのでしょうか。

この1か月の無料期間で、無料ゲームしかプレイしないライト層がどれだけ残るかが、試金石になりそうです。

後はどうやったらこの仕組みを継続させていくか、なのですが、鍵としては集客と継続率になります。

いかに人を集められるかがサブスクリプションモデルの鍵

どれぐらいの人を集めることができるかが、最初の焦点になりそうです。

サブスクリプションモデルの大事な部分はまず集客、次に継続率かと思います。

まず規模を作らないと次につながりません。

最初に集めた人が多ければ多いほど、次の開発支援に回す資金が増え、さらに良いゲーム会社が増えゲームの質が上がり、新規ユーザーも増え継続率も安定し…、という好循環を作りやすくなります。

継続してもらうことも重要な要素です。

月額で少額のサービスは、使ってなくても解約するのをつい忘れてしまうということが多いですし、そういう意味では継続されやすい面があります。解約忘れが底上げにもなり、継続的に安定して収益があげられるため、息の長いサービスになる可能性があります。

人を集めるという意味では、アップルはiOSという巨大な人の集まり(市場)を持っています。

その飽和状態になりつつある既存のゲームアプリ市場に対して、新たな形でアプローチをかける試みなわけでして、この差別化がうまくいくのかは興味があります。

仕組みよりも「良いゲーム」があるということが大前提なんだろうな、とはわかっているのですが、やっぱりシステムにも興味が出てしまいますね。

懸念としては、ゲーム開発会社の収益モデルは大丈夫なのかな、といったところです。

どれぐらいのパーセンテージでゲーム会社に入るのかは現状では良くわかりません。個別契約なのか、一律のパーセンテージなのか、ダウンロード数に応じてなのか、ここは不明ですが、開発会社にきちんと売り上げが入る形になっているといいなと思います。

ゲームの適正価格というのは、正直良くわかりません。

開発にかかった人と時間と、買う人に提供されるサービスの満足度や遊べた時間などはゲームによって違うからです。

ただ、どこかだけが利益を大きく得るのではなく、売る人も、場を提供する人も、買う人も、すべてが利益になるような、そんな形に発展するといいな、そうするとまだまだゲームを楽しくプレイできるな、なんて夢のような願いを持っていたりもします。

色々考えてみて、ゲームのサブスクリプションサービスは未来がありそうだなというのが結論です。ただ、現状の問題点として、PCゲームなどである既存のサービスでは価格が高く感じるのと、今回の「Apple Arcade」は、「スマホゲームは無料が当然」層にどう刺さるのか、というのがあり、楽観視はできないなというのがもう一つの結論になります。

ハードルを超えれば行けそうな気がするんですけどね~。

とりあえずは自分もちょっと試しに入ってみて、色々ゲームをプレイしてみようと思います。

Source:Apple Arcade

Source:Apple、Apple Arcadeを発表 — モバイル、デスクトップ、リビングで楽しめる世界初のゲームのサブスクリプションサービス