「マリオカートツアー」までの任天堂のスマートフォン用ゲームへの取り組みをまとめてみる

任天堂がスマホゲーム参入したのは2016年のスーパーマリオランだったと思います。(Miitomoはゲームではなかったですよね…)

スーパーマリオランのリリースは2016年12月15日で、2017年の3月には任天堂スイッチが発売されます。

任天堂のスタンスから、スマホゲームには乗り気でないような印象を受けていました。

ですが、2016年にはスマホのゲーム市場は無視できない規模になっていましたし、ついに重い腰を上げた、なんて当時思ったのを覚えています。

その後、任天堂のスマホアプリの歩みは止まらず「ファイアーエムブレムヒーローズ」「どうぶつの森ポケットキャンプ」「ドラガリアロスト」「ドクターマリオ ワールド」と続いて、2019年9月25日に「マリオカートツアー」がリリースされました。

スーパーファミコンのスーパーマリオカートが1992年8月27日の発売でしたから、かれこれ27年前になります。

マリオカートはスマホアプリにまでなりました。

ずいぶん時間がたったものです。

任天堂のスマホアプリに対する取り組みはかなり紆余曲折という感じがしますが、それを振り返っている記事とかあまり見つからなかったので、自分でまとめてみようかと思います。

スーパーマリオラン 2016年12月15日

2016年に初めて任天堂がリリースしたスマホ用ゲームです。

古典的なスーパーマリオプラザーズの横スクロールアクションを踏襲しながらも、自動で走るマリオをタッチするとジャンプしたりアクションしたりをする、半自動のコイン集めが主体なゲームでした。

1-3まで無料でプレイでき、1200円を払うと1-4以降のステージを全て遊べる買い切りアプリでした。

最初の無料部分が体験版みたいなものですね。

買い切り方式には明確な意図があったようですが、リリース当初は1200円が高いかどうかで話題になり、課金要素があるほうが良いのではとか、様々な論争があったゲームでもあります。

このITmedia NEWSの記事内で、その意図が書かれていました。

もちろんそれも理由なのでしょうが、スマホアプリの基本プレイは無料、ゲーム内でアイテム課金という潮流と、買い切りゲームとして売りたいという企業の要望の中での折衷案としての1-3まで無料、だったのかな~と今となっては思います。

結果としては中途半端になってしまったのかなと。

体験版もなしでの1200円のほうが、ある意味売れたんでしょうかね。その2016年だったらどうだったのかな、賭けてみるぐらいの可能性はあったかな、と思います。今では厳しそうですが。

課金アイテム イコール ゲーム内で勝てる、みたいなゲームが多かったため、そこに拒否反応を示すのはちょっと任天堂っぽいな~と思いながら記事を読みました。

海外のSensor Towerの記事によると、スーパーマリオランは7400万ドルの売上を上げているようです。

とりあえず試しにスマホ用のゲーム作ってみました的な感じもしましたが、マリオとしては少し低い数字だったのかな、と思います。

スマートフォン市場に出るために、どうやってやるかの戦略を考えるための、フィジビリな意味もあったのかもですね。

ファイアーエムブレムヒーローズ 2017年2月2日

開発を、古参のセカンドパーティー「インテリジェントシステムズ」が担当してた任天堂スマホアプリの第二弾になります。

基本無料ゲームです。

ゲーム内で使用するキャラクターをガチャで獲得する、という仕組みを取り入れています。

これはスーパーマリオランのフィードバックを活かした結果なんでしょうかね。

先ほどと同じ記事ですが、ファイアーエムブレムヒーローズの収益は累計で6億ドルを突破しています。

シリーズ恒例のターン制ストラテジーのシミュレーションゲームはそのままに、スマートフォンの画面に合わせた改良を加え、キャラクターはガチャで購入、という形です。

開発者インタビューで結構話してくれているので、意図がわかりやすいですね。

基本無料ゲームで、ストーリーを進めるのはスタミナ制で、週末ログインボーナスとかあって…と、まさにスマホゲーといった感じのシステムでした。

リリースから2年たっているのに、2019年の2月から1億ドル以上収益を積み上げているので、大ヒットと言って良いアプリになっています。

どうぶつの森ポケットキャンプ 2017年10月25日

任天堂の大ヒットゲームのスマホ版です。DeNA、エヌディーキューブとの共同開発になります。

ゲーム機版のどうぶつの森は、自分が村長になって村を発展させていくゲームですが、スマホ版はその縮小版というか、ちょっとアレンジした版になっています。

プレイヤーがキャンプ場の経営者になり、そのキャンプ場を発展させていくのがゲームの趣旨になります。

ゲームとしては基本無料で、ゲーム内でのアイテム課金システムがあるのはファイアーエムブレムと同様です。

キャンプ場を発展させるには「キャンプレベル」を上げる必要があります。キャンプレベルを上げるには、キャンプ場に来る動物たちのお願いを聞く必要があります。そのために魚を釣ったり果物を集めたりします。またキャンプ場の発展には家具が必要だったりします。そのための素材集めなども必要になります。

この果物が新たに実る時間や家具を作る時間などを短縮するためのチケットを購入することができます。

どうぶつの森ポケットキャンプでは、家具を作るなど何がしかの行動をすると時間がかかるようになっています。その時間を短縮できるアイテムがリーフチケットになります。

こちらもSensor Towerの記事ですが、収益は1.11億ドルを突破しているようです。

ダウンロードに対する収益額としてはファイアーエムブレムや後述するドラガリアロストよりもかなり低いですが、収益としてはドラガリアロストに近く、その2つと比較すると幅広く少額で課金アイテムが購入されているゲームと言えます。

これは課金アイテムへの導線が意図的にそういう作りにしてあるんじゃないかと想像しています。ゆっくり長くあんまりお金を使わずに遊ぶことができるように作られている、のではと。

言ってしまえば課金アイテムは「時間が短縮されるだけ」で、待っていれば完了します。とは言ってもレベルが上がっていくと非常に長い時間がかかるようになり、ゲームを進めたい人は買うし、そうでない人は起動率が落ちていく、みたいになるのかな、と思いました。

アクティブユーザーのデータはないので完全に推測です。

広告は入れずに緩く課金アイテムを購入してもらう任天堂っぽいゲームという印象を受けました。

タイマー表示などの購入を促す導線はもちろん存在するため、スマホアプリにしては、というレベルですが。

本家のどうぶつの森は特に目的など決めずに何をしても自由なので、そういったゲーム性とは少し違った「どうもり内のミニゲーム」という感じでした。

ドラガリアロスト 2018年9月27日

サイバーエージェントグループのCygamesが企画し、任天堂と共同で開発・運営するアクションRPGです。

言葉の定義が正しいかどうかは別にして「ソシャゲ」というイメージにそのまま入るような印象のゲームです。

基本無料のアプリ内課金ゲームです。

2018年の4月に任天堂とCygamesは業務提携を発表しました。任天堂が株式の約5%を取得する、という形でした。その際に、Cygames企画し、任天堂と開発するという発表があった、と日経の記事にはあります。プレスリリースもそんな感じでした。

当初は思ったよりも収益が上がっていなかったようで、サイバーエージェントの決算説明会で予定より売り上げが伸びていないと、下方修正の文脈中で語られてました。

とは言っても1億ドル以上の収益は上げているようです。

当初の予算が非常に高かったのか、2社にまたがるために費用も多いのかは定かではないですが、見通しよりは低くなっているようですね。

とは言っても1年で1億ドルならば、1ドル108円でも108億円なわけで、かなりな売上なわけですが、ファイアーエムブレムの最初の1年と比較すると…となってしまいますかね。

任天堂の既存ゲームではない新規ゲームを他社と共同で運営開発し、そのノウハウを吸収するのが一番の目的なのかな、という想像をしていますが、これは深読みしすぎでしょうかね。

ドクターマリオ ワールド2019年7月10日

任天堂、LINE、NHNの3社が共同で開発、運営するアクションパズルゲームです。

ドクターマリオといったら、ゲームボーイで発売された落ち物パズルゲームなわけですが、そのコンセプトだけ借りて別ゲーに作り変えましたって感じのゲームです。

元祖はテトリスというかコラムスというか的なゲームで、ぷよぷよにも影響与えたよな~的なゲームでした。たしかファミコンでも発売されていたような気がします。

スマホ版になるにあたって、結構変わっています。

色付きのウィルスを同じ色付きのカプセルで消す、というコンセプトは同じですが、まずカプセルが画面の下から上に落ちていきます。なんか変な日本語ですが。下から上に上がっていく、という表現のほうが良いのかもですが、どうにも落ち物パズルの印象が強く…。まあどちらでも良いですが。

これはスマートフォンというデバイスの特徴的に、そういうUIにならざるを得なかった、という感じがします。

ルールも大幅に変わっていて、カプセル数が有限のステージクリア制パズルになっています。

ステージには障害物と一緒に各ウィルスが配置され、それを決められた数のカプセルで全て消すとステージクリアになります。

ドクターマリオ ワールドも基本無料でアプリ内課金システムがあります。

こちらはゲームをするために「ハート」が必要になります。ハートは最大5個までストック可能で、時間経過で回復します。また、ステージの初回クリア時にも入手できます。

さらに、ゲーム内アイテムのダイヤモンドを消費することで、60分間ハートを無制限に使えるようになります。このダイヤモンドが課金アイテムになります。

無料でプレイする場合には、プレイに制限があります。それ以上プレイしたい場合はお金を使ってね、というのがドクターマリオ ワールドの収益モデルです。

Sensor Towerの2019年9月27日の記事では、出たばかりのマリオカートツアーよりも収益が低く、100万ドルといったところです。

リリース直後1か月の比較記事も出ていますが他の任天堂既存タイトル版に比べると、かなり低い数字が出ています。

これはゲーム性も原因してる気がします。

一応ダイヤモンドでガチャを引けたりもするのですが、今のところ収益としては伸びていないようですね。

LINEの落ち物パズルといえば、ツムツムを思い出すわけでして、そのドクターマリオ版、的な印象を受けます。

マリオカートツアー 2019年9月25日

任天堂とDeNAが共同開発した、マリオカートのスマホ版です。

収益モデルとしてはついに月額課金が入ってきました。

ゲーム自体にサブスクリプションモデルをくっつけてきたんですね。

ゲーム内では性能の違うキャラクターとマシン・グライダーがガチャ対象になります。このガチャに関しては従来のゲームのように石を購入することで引けるようになります。

マリオカートにはもう1つ、「ゴールドパス」という購入要素があります。

これは月額550円になります。

特典としては、ゲームを進めていくともらえるゴールドギフト、ゴールドチャレンジで特別なピンバッジ、200CCのゲームモード参加、があります。

これはなかなか思い切ったことをしてきたな、という印象です。

こういう方式は他のアプリゲームであるんですかね。昔のオンラインゲームなどは、ゲーム自体が月額課金や従量課金だったものがあるようですが。アプリのゲーム内サブスクリプションモデルは非常に興味深いです。いろんなデータが出てくるのを期待しています。

ゴールドパスは、初めての人は2週間無料で体験できるため、まだ収益には直結していないと想像できます。

すでに2000万ダウンロードとのことで、ダウンロード数としては過去の任天堂アプリの中で最速のようです。

ちょっとだけプレイしてみましたが、縦画面のレースゲームはとても難しいですね…。

最近はFOVを100とか110にしたFPSばかりプレイしていたせいで、横幅が無いのが地味に難しく感じます。

曲がっている時にコースの先がわからない…なんてことになっています。左上のミニマップを見てないとすぐに迷子になります。

これは今までのマリオカートの経験も邪魔をしている気がします。長年のプレイ経験が悪い方向に向かう例ですね。

ただ、操作としてはなんだかんだで良くできているので、慣れると面白そうです。

ドリフトも慣れれば指の操作でなんとかなりますし、ゲームとしてはかなり良くできていると思います。

プレイにはニンテンドーアカウントが必要になります。

課金モデルの感想

いろんなパターンがあるな~と感心します。

無料体験付き買い切りモデル⇒キャラクターガチャ⇒時間短縮アイテム⇒普通のソシャゲ⇒スタミナ⇒キャラ+ゲーム内サブスクリプションと、まさにあの手この手で実験している感じです。

各ゲームの料金体系からの推測ですが、やっぱりスーパーマリオランはかなり目標から下回ってしまったのかな、と。

マリオオデッセイの世界売り上げと比べたら…と考えると、やはりマリオの割には低かったという評価になってしまうのでしょうか。そのため、その後のスマホゲームは基本無料でゲーム内でのアイテム課金サービスが採用されている、と。

自分としては、スーパーマリオランは、消費者には良いゲームだったと思います。1-3までプレイして好きな人はすぐに買うでしょうし、合わない人はすぐに辞めたと思います。

1200円のゲームを、そんなにやらないかもだけど試しに買おうというのは、steamでもちょっと気が引けます。(steamは時間制限など条件次第で返品できますが)

なので、試せるのは非常にありがたかったです。

ただ、それでは結果が出なかったために、課金モデルの実験が始まったのかな、と。

今回の記事をまとめていて、この課金システムの流れは非常に面白いな~と思っています。

システムだけでは結果はついてきませんし、個々のゲームの魅力なども収益に関係するため、一概には言えませんが、仕組みの探求をしている姿勢が非常に面白いです。

パートナーとして組んでいる会社の特色も出ているのが興味深いですね。

ゲームの課金モデルについては、任天堂だけでなく、色々なゲームで一度ちゃんと調べて、まとめておきたいな~と思います。

まとめ

マリオの買い切りに対してのフィードバックを受けてか、その後のアプリは課金の仕組みが取られています。

基本無料のゲーム内課金システムという、スマホアプリの流れと、自社の強みをどうやって融合させるかというのが、任天堂のスマホアプリに対する挑戦だったのかな~と思います。

マリオカートツアーでも踏襲していますし、収益モデルはゲーム内課金サービスになるという流れは変えられないのかな、という印象です。

ただ、1つ気になっているのが、最近開始された「Apple Arcade」です。

アップルの「Apple Arcade」を考える。サブスクリプション系ゲームサービスのビジネスモデルに未来はあるのか

月額600円のサブスクリプションモデルで、該当のゲームが遊び放題になる、アップルの新サービスです。

ここに任天堂がゲームを提供する、となると、任天堂が一番強みとしているゲーム自体の面白さをそのまま生かしつつ、スマートフォンアプリの市場で収益につなげることができるのでは、なんて予想したりします。

「Apple Arcade」の、今後の課題の一つに、有力なタイトルが出るかどうかがあると思うのですが、それにもピッタリハマるような気がします。

どかんと隠し玉が出ると楽しいですが、これは単なる希望というか妄想なので、難しいかな~とも予想しています。理由としては、マリオカートツアーにゲーム内に単体でサブスクリプションモデルをくっつけてきたからです。価格も「Apple Arcade」600円に近い550円です。

「Apple Arcade」とマリオカートツアーのサブスクリプションは、今後どうなっていくのか非常に気になります。

とりあえず、現状の任天堂のスマホアプリタイトルは、ファイアーエムブレムが大ヒットで、その他はまあまあ、なので、マリオカートツアーで新しく実験する、というところでしょうか。

基本無料・アプリ内課金サービスの流れは市場でも継続していますが、アップルはその飽和した市場にサブスクリプションモデルを当ててくるという、新たな動きを見せています。

任天堂はまさかのマリオカートツアー内にサブスクリプションモデルを突っ込んできました。

様々なプラットフォーマーがサブスクリプションモデルでゲーム市場に参入してますし、Googleも参入を予定しています。

任天堂は、ゲーム内にサブスクリプションモデルを入れる方法を拡大するのか、「Apple Arcade」のようなプラットフォーマーの中に任天堂のゲームが入っていくのか、それとも、任天堂オンラインをさらに拡充して、スイッチのソフトでもサブスクリプションモデルを導入するのか、色々選択肢はあるかと思いますが、マーケティングの観点からも非常に楽しみな動きなので、今後も注力して見ておこうと思います。